遺伝性「脊髄小脳変性症」と「治験」について

私が今患っている難病の「脊髄小脳変性症」について少し話させて下さい。

 兆候らしきものを感じたのは50歳半ば頃でしょうか。当時の私はいわば人生の脂の乗り切った絶頂期とも言うべき時期を過ごしていました。

公的には金沢市議の2期目で、同時に保育園の理事長・園長職にあり、私的にも消防分団長、町会長や早朝野球チームの選手オーナーでリーグ会長という具合に順風満帆の生活でした。

異変を感じたのはその時分で、議員として出席したセレモニーで紹介を受けて立ち上がった時にふらつく。田圃の畦道を歩いていて何度もバランスを崩して足を踏み外す。野球をしていてフライが捕りづらい。バットとボールが当たらない。極め付きは、3期目の選挙に落選した半年後の秋ですから56才の時、3ブロック職員懇親ボーリング大会の折、昨年まで2ゲームのアベレージが150点あったのにストライク、スペアー共に一つも取れず、80点まで急落してしまった。これにはさすがにショックでしたね。

その時分、4歳~5歳年下の弟・妹も同時に変調をきたしており、しかも私よりも進行が早い。

その内、60歳過ぎに歩行の不自然さを自覚し、65歳位には走れなくなった。

65歳の時、公園で年少組の孫に追いつけず、情けない思いをしました。

 既にその時、弟は杖、妹は手押し車の助けがなくては歩けない状態でした。

 それに比べ私は、まだ、これくらいで喜ばねばと思っています。

 人生そのものも終局に近づく年齢であり、最盛期には事なきを得ている。

 母はこれが原因で79歳で入院したものの、病気に関しては寡黙を通しました。

 働き盛りに症状が出たら、あるいは青年期にその症状が襲ったらと思うと冷や汗が出る思いです。現にそういう人達が大勢います。その人達は収入にも事欠き、経済的不自由さを強いられています。また、常に他人の介助を必要としている人達も多いのです。

 改めてスマホを使って「脊髄小脳変性症(SCD)」とはどういう病気かを調べてみました。

主に小脳の細胞の変性(失調)により、「歩行時にふらつく」「ろれつが回らず話しづらい」「不規則に手が震え目的の物をつかみづらい」その他様々な運動失調症状をきたす病気の総称とあります。

原因は様々ですが、遺伝性と非遺伝性(弧発性=多系統萎縮症)に大別され、日本全国で3万人を超える患者がいると推定されています。

 また、その内遺伝性が1/3、非遺伝性が2/3といわれています。

 遺伝性の脊髄小脳変性症の症状は似通っていてもその原因等により幾つもの型に分けられおり、日本人はSCA3・6・31型が多数を占めていて、私の母親系親族はSCA3型(マチャド・ジョセフ病)です。

 ちなみに、遺伝率は約50%と言われていますが、私の親族に関しては、亡母は4人姉妹の長女ですが4人全員、私のきょうだいは全員、罹患率は高いです。

 生存親族(第4親等まで)患者数は9人、可能性のある者10人。

 仮に可能性のあるいとこの子まで含めるとその数は数十人となります。

母親家系から来ているこの遺伝子はなかなか強く、しっかり引き継がれているようですね。

この負の遺産はどこかで断ち切らなければなりません。

さもなくば、これを軽減しなければなりません。

それが先に生まれた者の務めだと思います。

私は家族には全てを伝えてあります。一人娘も罹患の可能性については既に知っており、自分の人生設計に既に織り込まれているはずだと思います。

遺伝子検査をすれば分かることとは言え、このことを伝えるのは、これからの人生がある程度限定されることでもあり、勇気のいる決断を要します。

この難病の患者と家族で作る友の会の仲間の女性が、家族に打ち明けたため、結婚予定の息子さんの相手方に伝わり、破談となった話しを聞きました。

それが現実です。

家族を含めその事実を伝えるかどうかは判断の分かれるところでしょう。

しかし、近年の医療技術の進歩はめざましいものがあります。

特に遺伝子分野での進展には目を見張るものがあり、その中でも再生細胞医療は画期的です。

今回の治験はその成果を活かしたもので、台湾の健康な成年の正常な遺伝子を培養し製薬化したものの安全性と効果を試すための治験です。

脊髄小脳変性症のSCA3型とSCA6型の治療薬の開発と製品化を目指したもので、既に第1相治験である安全性の検証が終わり、第2相治験の実施です。

第1相は数人の治験参加者で実施しますが、第2相治験はより広範囲での臨床試験によって、新薬の更なる安全性と薬の効果を調べるものです。

全国にいる対象患者1万人を超える患者の中から、適格者(比較的軽度の患者の中で適正基準を満たした者)を50名選び、全国の10ヶ所の医療機関で治験を実施するものです。

その治験参加のため、私は1月19日に信州大学付属病院で2泊3日短期入院をしてきました。

治験そのものは中日、1時間足らずの試薬の点滴だけですが、2泊3日の大半は事前検査と経過を見るためのものです。それを1ヶ月ごとに3回実施します。

どの治験も一緒だと思いますが、治験参加者、今の場合参加者の50名を半数の25名ずつのグループに分けます。

半数には試薬を投与します。残りの半数には試薬を抜いた溶液を投与します。

これをプラセボ効果といい、治験にはこれがつきものです。

事前説明ではこのことの説明を受け、納得した上での治験参加となります。

つまり、試薬を投与される確立50%,ただの水を投与される確立50%です。

根底には人間心理としてある「偽薬でも良薬と思い込めば効き目が生ずる」

可能性を極力排し、純粋な薬の効用を引き出すための人間心理の応用ということでしょうか。

 グループ分けは「コインの裏表」のようにくじで振り分けられます。

50%の運試しですね。唯の「水」だけを飲まされるために治験に参加することも十分考えられます。その確立50%です。治験前にはそのことは本人にも担当医にも秘密にされます。

 メリット、デメリットだけで考えれば、

・試薬を飲んだ人=薬に効き目があれば良くなる可能性があります。副作用の可能性もあります。

・水を飲んだ人=効き目はなく症状に変化はなし。副作用もありません。

 新薬の効き目をより精度の高いものにするために必要な措置ともいえます。

 それが「治験」です。薬の効果を先取りできるというメリメリットだけを

期待しての治験参加は半分の確立で期待はずれの可能性もありますが、新薬製

造のプロジェクトに参加できたということで満足すべきでしょう。

 話しは変わりますが、昨年秋のノーベル化学賞は「ゲノム編集」の新たな

手法を開発した二人の女性研究者が選ばれました。

 「遺伝子情報(ゲノム)の狙った部分を極めて正確に切断したり、新たに

別の遺伝子を組み入れたり出来る」手法を開発した功績に対するものです。

 凄いですね。科学の発達は正に日進月歩ですね。

 これが遺伝性の難病の根治に繋がればこんなに幸せなことはありません。

 さて、治験と新薬への期待を持ちつつも、私はリハビリによる症状緩和と進

行速度の軽減に努力したいと思っています。

 そして、出来れば症状の違いに応じた、その人に合った適切なリハビリメニ

ューがあれば良いと思っています。

 正直言って、現在のリハビリは画一的で、本当にその人にあった、より効果

のあるリハビリかどうか少し疑問を感じています。

 課題は沢山ありますが、一つ一つ地道に努力していこうと思います。

 

村 池 敬 一 

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